結局、その日、僕は何にも手をつけられず、自室で、ぼんやりまどろんで過ごした。

次の日、昨日と同じ道をたどり、彼女の歌声を聴いたところで、足を止めた。
ここだ。ここであの声を聴いたんだ。
眼を閉じて、彼女の歌声を思い出そうとする。
そう。こんな声だった。初めて聴くんだけど、懐かしいような、切ないような気がする歌声、、

眼を開けても、歌声はやまなかった。
空を仰ぐと、彼女がいた。

僕はまた呼吸の仕方を忘れたまぬけな金魚のように、口をぱくぱく動かすことしかできなかった。
ゆれるようなビヴラートの後、彼女はこちらをちらりと見やり、微笑をうかべたまま、くるりと黒髪をたなびかせ、上空へスキップし始めた。

再び、あの白と黒のコントラストを眼にした僕は、不意に我に返った。
そして、あの強い欲求がよみがえった。
もっと彼女の唄を聴きたい
僕は千切れんばかりに両手を彼女の方にのばした。
けれど、僕の手に触れることなく、白いワンピースの裾はふわふわとゆれながら、青い空に消えた。

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