サイレンの音と低いうなり声。
逃げ遅れた僕は独り。
岩の陰にうずくまった。
草に頭を押し付けて。
ただひたすら音がやむのを待っていた。
低いうなり声は大きくなって。
次々に鉛の塊が落ちてくる振動が伝わってくる。
草が焼けるにおい。
木が焼けるにおい。
家が焼けるにおい。
人が焼けるにおい。
片方の靴はどこでおとしてきたのだろう。
僕の下でくすぶる木々の熱さに気付いた。
いつもの見慣れた街が。
跡形もなく。
真っ黒に塗りつぶされて。
けむりと鼻につくにおいだけがただよっている。
何処からか聞こえてくる赤ん坊の泣き声。
うめき声のような音と。
僕は声もなく立ちすくんだ。
涙がほほをつたう。
それは回りの熱によって。
とてもあつくなって。
すぐに乾いた。
さやかは何処にいったんだろう。
おかあさんは?
漂う煙と。吐き気をもよおすにおいに。
僕はかけだした。
ここにはいたくない。
ここは僕の知ってる街じゃない。
独りでうずくまっていた岩の陰に戻って。
草に顔を押し付けて。
煙を吸って痛くなったのどから。
嗚咽が漏れた。
たすけて。
たすけて。
ここにはいたくない。
誰かここからつれだして。
あの暖かかったころに僕をかえして。
僕にさやかとおかあさんとおとうさんをかえして。
煙のせいかな。
それともあのきついにおいのせいかな。
頭がいたくて。
なにもかんがえられないよ。
身体にも力がはいらないんだ。
たすけて。
一体どのくらいそうしていたんだろう。
見えていた煙も消えていた。
開いたままの僕の眼にはなにも映らなくて。
あたたかい食卓を思い出した。
あぁ。さやかにあげようと思っていた。
最後の飴のかけらも。
ポケットの中でとけてしまったみたい。
たすけて。
向こうから誰かがやってくる。
ガラガラと重そうな音がする。
誰?
僕をここから連れ出しにきてくれたの?
それは制服を着た男の人たちだった。
めんどくさそうに僕を台車にほうりなげた。
そしてガラガラと音をたてて引いていく。
そこにはたくさんの冷たくなった人たちがつまれていて。
僕はその人たちと一緒に通り過ぎる地面をただ眺めていた。
やがてゆっくり進んでいた台車は止まり。
一番上に乗っていた僕は男の人にかつがれ。
放り込まれた。
暗い穴に。大きな穴に。
ドサリと落とされた僕は痛みも感じることもなく。
ただ土の冷たさを気持ちよく思った。
そして僕の上に次々に冷たくなった人たちが重なって。
どこかでかいだにおいが。
あぁ。あれだ。
あの黒い街のにおい。
草の焼けるにおい。
木の焼けるにおい。
家の焼けるにおい。
人の焼けるにおい。
僕の焼けるにおい。
あたりには煙と吐き気をもよおすようなにおいがただよい。
僕はさやかにあげれなかった最後の飴のかけらをにぎりしめていた。
逃げ遅れた僕は独り。
岩の陰にうずくまった。
草に頭を押し付けて。
ただひたすら音がやむのを待っていた。
低いうなり声は大きくなって。
次々に鉛の塊が落ちてくる振動が伝わってくる。
草が焼けるにおい。
木が焼けるにおい。
家が焼けるにおい。
人が焼けるにおい。
片方の靴はどこでおとしてきたのだろう。
僕の下でくすぶる木々の熱さに気付いた。
いつもの見慣れた街が。
跡形もなく。
真っ黒に塗りつぶされて。
けむりと鼻につくにおいだけがただよっている。
何処からか聞こえてくる赤ん坊の泣き声。
うめき声のような音と。
僕は声もなく立ちすくんだ。
涙がほほをつたう。
それは回りの熱によって。
とてもあつくなって。
すぐに乾いた。
さやかは何処にいったんだろう。
おかあさんは?
漂う煙と。吐き気をもよおすにおいに。
僕はかけだした。
ここにはいたくない。
ここは僕の知ってる街じゃない。
独りでうずくまっていた岩の陰に戻って。
草に顔を押し付けて。
煙を吸って痛くなったのどから。
嗚咽が漏れた。
たすけて。
たすけて。
ここにはいたくない。
誰かここからつれだして。
あの暖かかったころに僕をかえして。
僕にさやかとおかあさんとおとうさんをかえして。
煙のせいかな。
それともあのきついにおいのせいかな。
頭がいたくて。
なにもかんがえられないよ。
身体にも力がはいらないんだ。
たすけて。
一体どのくらいそうしていたんだろう。
見えていた煙も消えていた。
開いたままの僕の眼にはなにも映らなくて。
あたたかい食卓を思い出した。
あぁ。さやかにあげようと思っていた。
最後の飴のかけらも。
ポケットの中でとけてしまったみたい。
たすけて。
向こうから誰かがやってくる。
ガラガラと重そうな音がする。
誰?
僕をここから連れ出しにきてくれたの?
それは制服を着た男の人たちだった。
めんどくさそうに僕を台車にほうりなげた。
そしてガラガラと音をたてて引いていく。
そこにはたくさんの冷たくなった人たちがつまれていて。
僕はその人たちと一緒に通り過ぎる地面をただ眺めていた。
やがてゆっくり進んでいた台車は止まり。
一番上に乗っていた僕は男の人にかつがれ。
放り込まれた。
暗い穴に。大きな穴に。
ドサリと落とされた僕は痛みも感じることもなく。
ただ土の冷たさを気持ちよく思った。
そして僕の上に次々に冷たくなった人たちが重なって。
どこかでかいだにおいが。
あぁ。あれだ。
あの黒い街のにおい。
草の焼けるにおい。
木の焼けるにおい。
家の焼けるにおい。
人の焼けるにおい。
僕の焼けるにおい。
あたりには煙と吐き気をもよおすようなにおいがただよい。
僕はさやかにあげれなかった最後の飴のかけらをにぎりしめていた。
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